第9章 雪辱
「……敵の能力が何らかの要因で弱まっているのかもしれない。畳みかけるなら今だ」
由来は、なぜ二年間も解けなかった腕の呪いが急に解けたのか、その原因が何となく想像できていたが、あえて承太郎には言わないことにした。
なぜなら、我々が今やるべき事は、敵を一刻も早く倒すことだから。
敵は由来をかつての仲間だから連れて帰る気だが、由来は倒されて拉致される気はさらさらない。
ちなみに今敵は臆病者のようにまた距離を取った。
こちらに迂闊に近寄らないのは、近距離攻撃型のスタープラチナに警戒しているのか。
「おい…お前力が戻って…」
「ない。まだ残念ながら」
由来は敵に聞かれないように、小さな声で承太郎に囁いた。
確かに呪いは解けた、が、現実は厳しい。残念ながら私のホワイトシャドウは、まだ呪いから完全に解放された訳じゃあない。
今の状態は冬眠から覚めたばかりの寝起きのようなものだ。
6kmの持久走が終わってから、呼吸を整えて体力を戻すのに時間がかかるのと同じ。
さっきDISCを奪われる前までのスタンド能力までに戻すには、少し時間がいる。
由来は自分の体だからそれくらいは分かっていた。
(だが、そこまで待つ余裕はない。ならやることは……)
「敵が今持っている残り一枚のDISCを取り戻し、能力を完全に取り戻すしか、方法はない」
それでホワイトシャドウの眠りを、一気に覚ませることだ。
「それを俺に言うということは、
・・・・・
ようやくか?」
「……あなたは言ったね。これからの旅に私の力が必要だと」
由来はさっきの死の淵に立たされた緊迫した空気は無くなり、声も元のように落ち着いていた。
呪いが解けて心に余裕ができたからか。
「あなたの推測が本当なら、私はホワイトシャドウを取り戻したい。私をいつも守っていたのなら、今度は私が救う。だから……」
“協力してほしい”
誰にも言ったことがないその言葉を口に出すのは、彼女には少し難儀だった。
慣れていないからだ。
なかなか口に出ず、じれったく思った承太郎が先に口を開いた。
「今まで売ってきた恩を同じ恩で支払えってか」