第9章 雪辱
戦いや敵のことなど一旦忘れて、あんな何かに夢中になり楽しんでいるのが。本当に初めてだ。
承太郎が思い浮かべた、今の由来の印象はこうだ。
スタンド使いとか関係ない、“どこにでもいる普通の女の子”
もし横顔ではなく真っ正面から顔を見れたら、もっと違って見えるだろう……
そんならしくなく女々しいことを考えていた。
それを自覚しながら、彼は温かいチャーイをすすったのだった。
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あのときの彼女の行いは、紛れもない偉業。
あの場の人間をあたたかく包んだ。
人一倍コミュニケーションが苦手でも、彼女には音を奏でることで、多くの人の心を和ませたのだ。
たとえどんな苦悩があっても、どんな理由があろうとも、彼女が成し遂げた事実は変わらない。
むしろ、苦悩がありながらも他人を思いやる心を持つ彼女は、尊敬に値する。
彼女が反省すべき点があるとすれば、他人を思いやっていても、その人の気持ちを考えず、少し自分勝手に動いてしまうことがあること。
その点は優しくない性格だ。
承太郎はそんなようなことを考えていた。
そして彼の言葉は、ちゃんと彼女に伝わった。心の芯まで、奥深くまで。
(わ、私は……)
誰かのためになれば、きっと自分は普通に近づける。
確かにそう思っていた。けど、それが
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望んでいたものじゃあなかった。
思い出した。
私は自分のスタンドが怖くて、人に危害を加えたらどうしようとビクビクしていた。
だからなるべく人と距離を取ってきた。
そして、“あの人”にコントロールの仕方を教わって、初めて思ったこと。
“これでようやく、友達作れるかな?”
私が人に親切にしてきたのは、罪滅ぼしでも、ましてやスタンドの凶暴性を隠すカモフラージュのためなんかじゃあない。
誰かと目を合わせて、話をするため。
私が人助けして本当に欲しかったのは、正しくあることでも礼の言葉とか、そうじゃあない。
私の存在を認めてくれる言葉とその存在だったんだ。
私はただ、認めてもらいたかったんだ……
パリーンッ スゥ……
「!」
由来は両腕に違和感を覚えて、ブレザーの裾をめくった。
「え……!」
鎖の模様の刺青は無くなって、ホワイトシャドウの手枷の鎖も消えていた。