第9章 雪辱
(来る……!)
承太郎に「敵から距離を取って」と言おうとしたら、それよりも承太郎が敵に向かって言い放った。
「違うね。本当の“偉業”っつーのは、
音楽や自分の力で、まわりの人間に幸福を与える奴のことを言うんだぜ。
てめーは自分の力どころか他人の力に縋り、ただ奪うことでしかしねー奴だ。それに比べて、コイツの方がよっぽどすげえぜ」
ドクンッ!
え?
承太郎がこのとき頭の中に思い浮かべていたのは、あのときの出来事。
由来の演奏を始めて
・・
見たときのことだ。
~~
次第に皆は演奏に集中するために、食事の手を止めて目を閉じた。おいしいスープが冷めることなど気にもせず。
ジョセフたちも周りにつられて、目を閉じた。
ただ1人、承太郎を除けば。
このとき承太郎が集中していたのは、彼女の演奏というより、演奏する
・・・・
彼女自身だった。
承太郎が見ていたのは、彼女の横顔。
今まで見たことのない、とても優しい笑顔をしていた。
ジョセフ、アヴドゥル、花京院の席の位置からでは由来の背中しか見えない。
しかし角度的に承太郎の位置からは、彼女の横顔を僅かに見ることができた。
由来と保健室で出会ってからまだ間もない。
彼女の全てを知っているわけでもないことを、承太郎は重々承知していた。
ただ少なくともこの2週間、今まで彼女のあんな顔を見たことがなかった。