第9章 雪辱
(この人、何で……)
由来は声が出なかった。
死んだばかりで硬直が解けてない声帯の機能が滞っていたのかもしれないが、もっと根本的なものがある。
こちらに話す猶予も与えず、ただ自分の気持ちや主張を一方的に話す承太郎に圧倒されていた。
という方が、理由として自然だった。
物心ついた時からずっと、"スタンド"に苦悩し続けてきた。
そんな私の年月の苦心を、スタンドを持ってたった2週間の男に、ズバッと言い切られた。
その図々しい態度には、妙な説得力もあり、由来は次第に顔色が変わっていく。
承太郎はそれを観察しつつ、声色を緩める。
「……確かにてめーの言う通りでもある。俺にはやるべきことがあるからここまで来た」
「え?」
由来に手を差し伸べる。
「てめーの力はこれからも必要になる。勝手に死ぬのは許さねえ。力貸せ由来」
初めて名前を呼ばれた。
それはまるで仲間を認められたような気がして、悪い気分じゃあなかった。
「……」
その手を取ろうと、由来は自分の手を伸ばす。
『再び過ちを繰り返すか由来?』
「!?」
敵の声が突如として聞こえてきたが、敵の姿はあたりに見当たらない。
スタープラチナで目を凝らすと、いつの間にか敵は2kmほどの遠い距離にいた。
つまり、テレパシーのような能力でこちらに干渉しているに違いない。
さっきの攻撃を喰らってから、距離を取って用心深くなっていると見受けられる。
『愚かな娘よ。
・・・・・・・・・・・・・・
DIO様の手を先に取っておけば、
・・・・・・・・・・・・・・・
これ以上苦しまずに済んだものを』
バタッ
「!」
承太郎が差し伸べていた腕に重くのしかかった。
由来の手ではなく、由来自身が倒れ込んだ。
「!」
腕を伝って、手の平に生暖かい液体の感触が広がる。
(まさかッ…!!)
再び抱き起こして体を反転させてみると、口から吐血して、腕を抱えるようにして苦しんでいた。