第9章 雪辱
あれは、貨物線の姿をした"力"(ストレングス)を暗示するスタンド船にいた時のことだ。
船内を詮索中、水道の蛇口を捻った時、意思とは無関係に水道を凍らせたことがあった。
承太郎が背後から近づいた時に見せたあの"暴走"。
あの氷結は、敵かもしれない相手の気配を察知して起きた反射行動。
(つまり、
・・・・・・
私を守るためだったの?)
守るような反射的な氷結。助けを求めるような氷の痕跡。
そして化学反応や時間経過による体の損傷を防ぐ冷却。
全て私の意志じゃなく、やったのはホワイトシャドウ。
様々な出来事の空白に、不明確な不安を取り除くためのピースが埋まっていく。
(ずっと、"暴走"していると思っていたのに……)
私は今まで、見えない恐怖に怯えながら、空虚な日々を送っていた。
このスタンドの刃が、いつか私の知らない間に、再び誰かを殺すことになったらと、ずっと怖かった。
そんな凶器を使いこなして善を行えなんて、基を言えば、正気の沙汰じゃあないかもしれない。
でも、承太郎の言うことが本当なら、私は今までホワイトシャドウを誤解していたの?
スタンドとは、己を守るための武器だ。
そして、己が決めた道を進むための意志そのものでもある。
承太郎は由来の気持ちが、分からんでも無かった。
2週間以上、悪霊に取り憑かれたと思い、自ら牢屋に閉じこもったことがあった。
他人に害をなすかもしれないリスクを考えた上での行動だった。
だが、祖父のジョセフや占い師のアヴドゥルがご丁寧に教え込んでくれたおかげで、その恐れは無くなった。
恐怖とは己の心が作り出す幻想でもあり、それを取り除くきっかけが必要だ。
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「お前が自分の都合に他人を巻き込みたくねえ
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なんていう都合に、俺は付き合う気はさらさらねえ。てめえの言うことにも従うつもりはねえ。俺は自分の決めた道を進む。もちろん、てめーもな……」
「?」
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「そんな風に諦める余裕があんなら、
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諦めねえことだけを考えやがれ」
「!」
承太郎の言葉は、由来の意思の風向きを確かに変えた。
下に向いてばかりだった由来は、星を見上げるように顔が自然と上がった。