第9章 雪辱
承太郎は由来をゆっくり離して、岩陰に寄りかかるようにして座らせる。
どうしても言わなきゃ気が済まないことがあり、抱えたままだと話しづらいからだ。
「今回の敵のことも、てめーのスタンドのことも。お前がちゃんと話していれば、てめーを1人にするわけなかったんだよ」
「……」
魂の発露であるスタンドの大半を抜き取られ、まるでゾンビみたいな状態で、ずっと戦ってきた。
知っていたら、ジョセフはそんな無茶をさせるわけがなかった。
敵スタンドへの対策を予め練って、色んな形で由来を守ることだってできたはずだった。
なのに由来は、2年前の事件を「ただ襲われて返り討ちにした」とだけしか言わなかった。
スタンドを奪われた事実を伏せて、結果、敵に追いやられて、実際に一度死んだ。
承太郎はそんな後味の悪さに苛立っていた。
「てめーが事情を言わずに1人突っ走ったから、俺もお前もこうして敵に追い詰められている。ポルナレフよりもタチが悪ぃんじゃあねえか?」
「……」
由来は苦笑いを混じえて、静かに答える。
「その通りで、言い返すことができないな……そうだよ。誰かを巻き込むくらいなら、死んだ方がマシだった。だからこうなったんだ」
その表情は、全てを諦めているような顔。
生き返ったばかりでも、死んでいるのと変わらないような印象だった。
「アンタが敵から聞いた話は、全て本当だよ。私は、自分のスタンドに葛藤しながら、この戦いに臨んで、敗北した」
スタンドも志も、その人生でさえも、中途半端で不完全な存在だ。
由来は脇腹を押さえながら、自分の今までを悟る。
ここまでに至った全ての始まりは、あの石段だった。
スタンドを駆使して人を助ける。
凶器を人助けの道具として正当化するための偽善を、陰ながらずっとやり続けていた。
しかし、あの日のあの時から、私の日常は大きく変わった。