第9章 雪辱
(もう一度奴の頭を叩き入れるか……いや、それより"コイツ"の安全優先だ)
オラッ!!
敵ではなく、隠れるために使っていたそばの大きな岩を砕いて、その破片を敵めがけていくつもぶん投げた。
「グッ!」
敵に当たり怯んだところで、床にまだ広がっているホワイトシャドウの氷のリンクを滑り、再び距離を取った。
(敵の動きがさっきよりも鈍い?さっき、DISCとやらを抜き取ったのと関係があるのか?いや、考えるよりもまず……)
別の岩陰に入り込み、承太郎は由来を大事に抱えたまま体勢を立て直す。
(やれやれ。体を張ったスケートにも、大分慣れてきやがったぜ……)
腕の中に抱えている由来を見下ろす。
顔色は相変わらず悪く、ぐったりしている。
息を吹き返したばかりの脳が酸素を欲しているのか、呼吸が未だに乱れている。
服越しでも分かるくらいに、相変わらずに氷みたいに体温も低い。
1人で逃げられるような体力があるとはとても思えない。
下手すれば今の由来は、生まれたての赤子よりも弱い。
(このままずらがって、せめてコイツをジジイのところに……)
さっき敵の頭にぶちかました拳は、かなり響いているはずだ。
この場を離れるくらいの時間は……
「……私は…死んでいた、でしょ?」
「!」
由来は僅かな力で承太郎を見上げた。
「アンタが…DISCを、取り戻してくれた」
「起きたばかりでも、状況は分かっているようだな?」
「そんな、無茶して……」
承太郎のこめかみや腕には、大きな傷がついていた。
スタンドの持ち主である由来が一番よく分かっていた。
明らかに、敵の手中にあったホワイトシャドウがつけたものだ。
「……すまなかった…私のせいで」
「ああそうだ。全部てめーの責任だ」
「え…?」
ドォーンッ!!
はっきりとものを言うタイプなのは知っていたが、そんなあっさりきっぱり情け容赦なく言われるとは思わなかった。
殴られるのとは全く別物の衝撃が、脳内に響き渡った気がした。