第9章 雪辱
夢を見た。
暗くて深くて冷たい海の奥へ沈んでいく夢を。
山の雪解け水は、川に流れ、海へと流れていく。
ああ、ここが私の最期か。
多くの死んでいった仲間と共に死ぬことができなかった私の末路か。
何も聞こえない。
何も話せない。
でも海の中は悪くない。
こうして無重力の中に身を預ければ、腕に付けられた重い枷を、少しは軽く感じられるから。
ただ1つ。息ができないのは不自由だった。
深く行けば行くほど、水面が離れていく。溺れていく。
水面に上がって呼吸はできない。この底無しの海に沈んでいくんだ。
水温も冷たくなっていく。体はどんどん冷えていく。
冷えて……
(あれ……)
ここは、海の中じゃあ、ない。
ゆっくりと目を開けた。
目に入ったのは、見覚えのある黒い学生服。掌のデザインの金属装飾をつけた学帽。
綺麗な緑色の瞳。
「お前!」
承太郎が私を抱えていた。だから無重力だったのか…
「じょ……た…ろ…?」
なん…で…?
「無事か?といってもさっきまで死んでた奴に問いかけることじゃあねえか」
「……私は…確か」
意識が段々とはっきりしていき、ようやく自分の状況が分かってきた。
ドクリッ
「ッ…?!」
心臓が動き出し、体内の血流が良くなった影響なのか、太ももと脇腹の銃創からの出血がひどくなった。
「ウッ……」
「ちょいと待ちな」
承太郎はすぐさま、自前のハンカチを2つに破った。
1つを、由来の太ももをきつく縛って止血を施す。
そしてもう1つは、四つ折りにして、脇腹に強く押し当てた。
「単なる応急処置だが、ないよりマシだ。しばらく押さえていろ」
また敵に血痕を辿って追跡されてはたまらないからだ。
「な、んで、アンタ…が……」
「ここにいる?ってか。やれやれ。俺と会う時はいつも同じ質問ばかりしやがるな」
そうやって呑気に話している暇はない。
敵スタンドのウォンテッドは、攻撃から立ち直り、こちらに向かってきていた。