第8章 雪解け
「この、アホウがぁぁ!!」
男はウォンテッドを使って承太郎に反撃しようとしたが、承太郎は片手でガードし、もう片方の手でDISCを取り戻した。
しかし、取れたのは1枚だけで、もう1枚は再び男の頭の中に入っていった。
承太郎はすぐに敵から滑って離れて、大きな岩の陰に潜んだ。
手元には、ホワイトシャドウが描かれているDISCが。
(これをアイツと同じ、頭に入れりゃいいのか?)
DISCを由来の頭に近づけると、DISCはまるで親元に帰る雛鳥のように、彼女の頭へスーッと入っていった。
すると、彼女に変化が訪れた。
彼女の冷たい体が、段々と元の体温に戻っていく。
由来を抱えているため、腕を伝ってその変化が分かった。
承太郎は鎖骨の下あたりにまた耳を当てた。
……トクンッ………トクンッ…
「!」
微弱ながらも、心臓の鼓動がなり始めた。
だが一つ問題がある。
まだ息をしていない。
心臓は体全体に酸素を行き渡らせ、脳や身体の様々な機能を働かせる重要な役割を果たす。
だが呼吸をしていないなら、酸素は送られない。なら……
「……悪く思うなよ」
承太郎は学生帽のつばをあげて、抱えている由来の頭を持ち上げて、自分の顔に引き寄せた。
スッ
唇を重ね合わせて、息を吹き込んだ。
時間が経てば経つほど、蘇生の成功率は下がっていく。
一回でも多く呼吸を与えなければならない。
承太郎は何度も由来の冷たい唇を奪う。
「ッハア…ハァ……」
自分の呼吸を忘れてしまうほど息切れする。
しかし一向に、由来の呼吸が戻る気配が無い。
死んでから時間が経ち過ぎたか……
(クソッ……)
承太郎は、いつもより弱気になっている自分に腹立たしく思った。
いつもとは違う意味で女に振り回されている気がして、少しムシャクシャもしていた。
そんな気持ちを押し付けるように、意識のない由来に熱を与えるようにキスをする。
ピクッ
「!」
重ねている由来の唇が若干動き、承太郎は唇を離した。
「由来ッ…!?」
承太郎は初めて、彼女の名前を口にした。