第8章 雪解け
「……」
若干震えた手で由来の目を閉ざした。
数十分前までは共に行動していた仲間が、今目の前で死んでいる。
この旅は命の保証がないくらい厳しい旅だ。自分だけでなく、仲間もまた然り。
その事は覚悟していた、はずだった。
体の芯まで冷たい、動かない体。
彼にとって初めての仲間の死は重すぎた。
「……畜生…」
しかし感傷に浸れるほど、今の状況は甘くなかった。
敵から身を隠している今、いつどこから襲ってきてもおかしくない。
(敵は…どうやってコイツを……)
外傷は太ももと脇腹の銃創のみ。出血もそこまでないのに、命を落とすのは不自然だ。
それは恐らく敵のスタンド能力の仕業に間違いない。それが分からなければ気が済まない。
(だが敵を討つよりもまず、コイツを安全な場所へ……)
SW財団に連絡して、保護してもらうか。
それにはじじいと合流しなきゃあならねえ。
だが、敵はそう易々俺を逃すとは考えられねえ。いや、もしここで敵を逃せば、コイツがどうやって死んだかも……
ギュッ
承太郎は無意識に由来の亡骸を抱き抱える力を強めた。
「!!」
突然思い出した。昨夜、アヴドゥルと話した重要なことを。
『スタンドを奪われれば、ただでは済まないだろう。もしかすると、死よりも恐ろしいことが起きるやもしれん』
(ま、さか……)
コトッ
「?」
足元に何かが落ちたような音がして目を向けた。
そこには、AEDが落ちていた。
「!」
承太郎はキョロキョロ周りを確かめたが、AEDがどこから出てきたのか分からない。
空から振ってきたのか。そんなことがあるわけがない。
(これは……!)
その裏では、男がその様子をスタンド能力で干渉していた。
(フーフフフ。俺のスタンド“ウォンテッド”は、その者が強く望む物を具現化して、そこにつけ込み操る能力)
人は強く願いそれが叶う瞬間、人生で最も気を抜く。
その心のゆとりに入り込み、じわじわと支配する。
支配された者は腕に刺青が浮き出て、我がスタンドの傀儡となる。
それで今まで多くの人間を操り、我がスタンドの本体としていた。