第8章 雪解け
(コイツ、仲間がやられて動揺しているのか?皮肉なものだな。かつてDIO様の仲間だった者の身を案じるとは…)
まさか、今承太郎の腕にいる由来はまだ息があるのか?
……いや、もうそんなことはどうでもいい。
たとえまだ息があったとしても、スタンドを完全に失った者はもう立つこともできまい。
問題はソイツが生きているかどうかではなく、どうやって承太郎からソイツを奪い返すかだ。
もう敵だとバレてしまった以上、隠す必要はない。
そもそも“俺”は、強欲な奴なら本体をいくらでも変えられる。
本体を変えられるスタンドなんて、普通は思いつかないだろう。
唯一俺の正体に勘付いた由来は、もう死んだから誰もこのことを知ることはない。
「遅かったな。とどめを刺さなくても、ソイツはもう死ぬ」
「!」
仲間の死で揺さぶりをかけて、その隙に承太郎が抱えている由来を奪う。
死体でもDIO様の所へ持っていけばこっちのものだ。
(といっても、近付けばスタープラチナにやられるのは確実。不意をついてもそのスピードに勝つ自信はない。引き離すしかない)
戦っても向こうはウォンテッドより圧倒的なパワー型。絶対に負ける。
俺の目的は
・・・・・・・・
戦うことじゃない。
「オラッ!!」
ドガァンッ!!
スタープラチナが地面に張ってある氷を割り、地面ごと大きな氷の固まりを男に向かって投げた。
「グヌッ!」
足止めをした隙に、承太郎は由来を抱えたまま、大きな岩の影に身を隠した。
そして冷や汗をかいた。敵の前では平然を装ってはいたが、どうしても信じられなかった。
由来が目を開けたまま、全く動かないのだ。
決定的なのは、体全体が異常に冷たい。
(そんな…まさか……)
わずかばかりの希望を持って、鎖骨の下あたりに耳を当てたが、現実を突きつけられる。
心臓音が、していないのだ。
(……見たところ、コイツの外傷は、銃でやられた太ももと脇腹の傷)
そんなはずはねえ。こんな出血。
心臓とか肝臓とかいった場所からは遠い位置で急所じゃあねえ…
動けねえくらいの傷かもしれねえが、致命傷じゃあねえはずだ。なのに…
・・・・
おかしい…
(だがどうして『心臓』が止まってやがる!?)