第6章 忍び寄る“影”(敵)
「!。おまえ…は…」
何て事だ。この声の主は、私たちをずっと尾行していたのか!
“ククク。いいなあ、その驚いた表情も。普段冷静な奴が取り乱したときの表情は最高だ”
敵は顔フェチの変態のようなことを言っていたが、今の私はそんなこと全く気にせずただ考えた。
(尾行していたにも関わらず、何もしてこなかったのは、相手は私“たち”だったから)
そして、私が独りになった途端、接触してきた。
“私がお前に接触したのは、忠告するためだ。お前はいつまでジョースターどもと下らん茶番を続ける気だ?”
「……茶番じゃあ…ない。あの人たちは、大切な人のために、命をかけて戦っている。DIOについているお前もそのDIOなんかに、彼らの強い意志も高潔さも…分かるがわけない……」
“フフフ。たとえそうでも、お前のいるべき場所はそんなところじゃあないだろ”
「!」
その言葉で、由来の表情が曇った。
“本当は気付いているはずだろう?お前が一番分かってることじゃあないか?生まれたときからずーっと”
「何…だと…!?」
“それが分かっていることが確認できれば、もう私は去る。だが、お前は他人の心配などしている場合じゃない。自分の体が今どうなっているのか分からないほど愚かではないだろう?お前は”
「……」
“忘れるなよ。お前の運命は私が…いや、DIO様が握っていることを”
スッ
倦怠感と腕の激痛が和らぎ、頭の中のモヤも消えた。
その代わり、敵の言葉が頭から離れなかった。
『本当は気付いているはずだろう?』
「……ッ!」
由来はいつもの調子をなんとか取り戻して、ジョースターさんと待ち合わせしている、今夜泊まる宿へ走っていった。
およそ1時間前
とあるレストランにて、
「ちょっとぉ!こんなの聞いてないわよ!」
「申し訳ございませんがお客様。当店の決まりでして…」
女がウェイターに怒鳴り込んでいた。
その原因は、頼んだコースに含まれるワインが、別のワインに変えられていたことだ。
店のルールでは、“在庫が切れたら別の品を使う”となっている。
注文の時に、ウェイターは女性からあらかじめご了承を得たはずが、女は「そんなの聞いてない」の一点張りでいた。