第6章 忍び寄る“影”(敵)
『!』
ジョセフたちはその言葉に驚いた。
あの無口で無欲な彼女が他人に頼み事をするなんて。一体何なんだ?
「今後のピアノの定期点検を徹底してください。特にこの暑いインドでは、温度調節は必須です。ピアノは温度変化に弱いですから、室内を25℃以下にするよう心掛けてください。
今は一時的に良くなってるだけなので、なるべく明日には業者を呼んでください。
ピアノもきっと、観客には一番のコンディションで聞いてもらいたいと願っているはずです」
聞いたところ、一つだけではなかった。
オーナーは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
彼女は観客にはもちろん、ピアノにも徹底的に配慮をしている彼女の姿勢に。
ピアノでさえ、まるで大切は顧客のように扱っている。
彼女のお願いは、ピアノのお願いを代わって言っているようにも思えた。
優しさに関して、この少女には敵わないな。
「はい。仰せの通りに」
こうして新しい発見と穏やかな時間が過ぎ、ジョセフたちは料理を頂いた。
「そういえば由来。さっき、ホワイトシャドウを出していたが、それはもしかすると…」
スタンド博士のアヴドゥルは、その瞬間をちゃんと見ていた。
「はい。ピアノの周りの空気を冷やすためです」
由来はさっき、ホワイトシャドウの冷気で、ピアノの調子を一時的に戻したのだ。
「俺のマジシャンズレッドの炎は日常生活で何かと便利だが、君のホワイトシャドウの氷も、かなり便利じゃあないか?」
アヴドゥルはスタンドで、タバコの火を付けられるし、体を暖めることができる。
無人島でサバイバルをする時に必要な物は何か?
それは“炎”だと、答える人はかなりいる。
「…ええ。しかし、私は今までの日常生活の中で、スタンド能力を使うことは極力避けてきました」
「む。それは意外だな。私や他の誰より、君が一番自身のスタンドを使いこなしているように見えたのだが」
「……」
由来の顔が少し曇った。
「ああ…!でも、無闇に使うべきではないのは確かだ。他人に見られたら厄介だからな。同じ生まれつきのスタンド使いとして、これは断言できる!」
「そう言ってもらえると嬉し……」
「『スタンド』! ほ…本体はどいつだ!?」
ポルナレフが御手洗いから飛び出してきた。