第6章 忍び寄る“影”(敵)
「今回のアナタの行動を見て、私たちにも見習うべきことがありました。それを気付かせて下さったアナタに感謝の意を込めて、この料理を提供したいです。
正直、アナタのようなピアニストを今すぐにでもこちらで雇いたいくらいです。しかし、アナタが立つべき舞台はこの小さなレストランではなく、きっともっと大きな場所です。この先もその純粋な心を、持ち続けてください」
話が飛躍しすぎて、私はついて行けなかった。
ジョースターさんたちは、私にあたたかい目を向けていたが。
今ウェイターは言ってた。
(私が…将来ピアニストに、なる?)
いや、私はピアニストになる気なんて…
今までピアノをやってきたのは、ピアニストなんて夢とか名声とか、そんな大層なもののためじゃあないんだ
・・
もっと単純な理由なんだ…ただ…
ポンッ
「!」
何かと思ったら、ジョースターさんは私の肩に手を置いた。
「由来。君が決めたまえ。これは君の手柄じゃからな。ワシもアヴドゥルと同じ意見じゃ」
昔からやんちゃで孫によく呆れられる祖父だが、この時だけは大真面目でいた。
タダ飯が食いたくてしょーがないってわけじゃなく、彼女が本当にお礼されるに値することをよく分かっていたのだ。
これはウェイターなりの敬意。ならそれは受け取るべきだと。
「…分かりました。ありがたく受け取ることにします」
その言葉が聞けて、ウェイターもジョセフたちも一安心した。
ポルナレフの厚かましい要求は、由来のお手柄でチャラになった。
「しかしいいんですか?こんなこと無断で。もしオーナーに怒られたら…」
そのウェイターはクスクスと笑って、「失礼」と言いこう付け加えた。
「それはご心配なく。何故なら、私がそのオーナーです」
『!』
「えッ!オーナーがウェイターを…!」
花京院は声に出るほど驚嘆したと同時に納得もした。
ウェイターの服装をしていて見抜けなかったが、その人は他の従業員よりも歳上で教養があり貫禄もある。
「すいませんのう。オーナーとは知らず、とんだ失礼を…」
ジョセフは先ほどの非礼を詫びた。
「いえいえ。私が好きでやっていますから」
その時、由来が付け加えた。
「ぶしつけですが、オーナーのアナタに、もう一つだけ、お願いしてもよろしいですか?」