第6章 忍び寄る“影”(敵)
「お待たせいたしました」
ウェイターが料理を運んできた。
(あ!もうそんな時間か…)
私は普通の食事客として、じっとしていた。ウェイターと目が合わないようにもした
これ以上目立つのは好かなかったから
テーブルに並べられたのは、実にインドらしいカレーやナンなどエスニック系だ
どれもおいしそうでこのレストランにふさわしい上品なものばかりだった
一品一品の名前と食べ方を説明し終え一礼して、厨房に戻ろうとした。
「ん?ウェイター、伝票はどこじゃ。忘れてるぞ!料金が確認できん」
ウェイターはにっこりした。
「もうすでにお支払頂きました。先ほど、そちらの女性に」
『!』
“ミィ”(me)?
皆が彼女に一斉に注目し、由来は自分自身を指して首を傾げた。
「本日はそちらのお嬢様から、
・・・・・・・・・・・・・・・
お金よりはるかに価値のあるものを頂きました。代金は結構です」
ジョセフは「マジかラッキー」と心の中でニシシッと笑ったが、本人はそうじゃなかった。
「え!あ、あれはピアノの健康診断みたいなもので、価値なんてそんな…まだ未成年の私がお金を受け取るなんて…」
(“ピアノの健康診断”……フッ、面白味のある表現だな)
承太郎は少し面白可笑しく思った。
「こちらで雇っている演奏者の皆様には、ある程度のギャラは出しています。アナタは彼らとは違い、
・・・・・・・
ピアノのために弾いてくださった。さらに皆様の心も癒やしました。これらの料理など安いものですよ」
厨房にいるシェフたちもウンウンと頷いていた。
しかし彼女は、こんな映画のような展開を望んでピアノを弾いたわけではなかった。
居酒屋の常連に唐揚げをサービスするくらいなら分かるが、今日初めてあった客にそんな大サービスを施すなんて。
「いいじゃないか。人の好意は受け取るのが礼儀でもあるぞ。それにさっき言ったように、この国の国民は懐が深いのだ」
アヴドゥルは後押しした。
「……」
黙り込む彼女にウェイターはさらに付け加える。
「これは私の個人的な意見ですが、私が高く評価したいのはアナタの演奏力だけではなく、その“ホスピタリティー”です」