第6章 忍び寄る“影”(敵)
『走り?』
確かにさっきのピアノは例えるなら、子供が無邪気にかけっこしているイメージがあった。
承太郎の言うことに納得したが、まさか彼が誰にも聞かれず自分の考えを自分から言うなんて。
皆は驚いた。彼女もまた。
「!。よく分かったね…」
「え!当たりなのか?」
「はい。当たりです」
(うぉ~、ワシの孫も流石じゃわい。父親の音楽を小さい頃から聴いてきたから、承太郎も音楽の感性に長けているんじゃな)
この2人、本当は気が合うんじゃあないか?
残念なのが、今は戦いのために旅をしている
戦いが終わったあとならきっと、気軽に楽しく話せる良き友人にもなれる
花京院と3人で、肩を並べて登校する背中を思い浮かべるとのう…
ジョセフはそんな想像を膨らませていた。
そしてそんな明るい未来は、来ることはなかった…
彼女は曲を弾く前、あの女の子からリクエストを聞いた。
『足を怪我してるから、元気が出る曲がいい』
(あの子がベートーベンやモーツァルトの曲名を知ってるとは考えづらかった)
知っている童謡をリクエストしても、この高級レストランでは場違い。
周りの大人からの視線が気になって、躊躇したんだ。
普通に考えたら分かることだ。
私はあの子の気持ちがよく分かった。
自分のせいで周りの空気を悪くするのは、嫌だもんね。
元気が出る曲であれば、どんなものでもよかったんだ。
(それにしてもあの子……)
私は今でも信じられなかった。
あの子は今朝病院で、片足がもう動かないと医者に申告されたばかりだったのだ。
演奏を終えた後、返礼品の代わりだとリクエストの理由を教えてくれた。
今までもリハビリを重ねて頑張ってきたらしい。必ず治ると信じて。
でも夢叶わず、医者から一番言われたくない言葉を言われた。
『残念ながら、諦めるしかない』
自分が信じてきたことを否定されたときの絶望はとてつもなく痛い。
なのに…
『本当に走ってるようで楽しかった。アナタのおかげで気持ちの切り替えもできて、前向きになれた気がするよ!素敵な曲をありがとう!ピアニストさん』
『…いいんだよ。君のためになったのなら良かった』
あの時あの子は、無理をして笑顔を浮かべていた
ピアノじゃ、彼女の足と心の傷が癒えるわけではない
本当にあの子のためになったのだろうか?