第6章 忍び寄る“影”(敵)
「ん?そこ…」
花京院が由来の後ろあたりを指差した。
(そういえば、さっきから視線が…)
クルッ
振り返ると、小さな女の子がこちらをじっと見ていた。
片足は包帯で巻いてあり、松葉杖で体を支えていた。
(わざわざここまで来たの?)
インドらしい軽い服装からして、このあたりに住む女の子だ。
学校の授業で頑張ったご褒美で、両親に連れてきてもらったところか。
その両親はどこに座っているのだろう。
「!」
テーブルにいる皆が一斉に注目したからか、女の子は挙動不審になった。
ここにいる80%が大の男だから、その貫禄にビビったのだろう。
「お嬢ちゃん。何か用かな?」
ジョセフがニコッと笑っても、女の子は笑わずむしろ固くなった。
でも由来の後ろに立っていたから、彼女に用があることは分かった。
松葉杖を握り締めて、勇気を振り絞ってか細い声を出した。
「あの…もッ、もう一度…弾いてください」
!
「わ、私?」
女の子は言葉が通じて嬉しくなり、5回くらい頷いた。
これって…
「アルコール?」
「違うアンコールだ」
承太郎が訂正した。
「フフフ。早速、可愛らしいファンができたじゃあないか由来」
アヴドゥルは微笑ましく思った。
「でも私は…」
「よろしければ、私からもお願いできますか?」
名乗り出たのは、さっき料理の注文を承ったウェイターだった。
「もう一曲違うのを弾けば、点検はさらに万全になるかと…」
ジョセフたちからのあたたかい眼差し。女の子の期待。ウェイターの後押し。
そんな空気で由来は自然と席から立った。
「……分かりました」
途端に女の子は満面の笑みを浮かべた。
ハリウッドスターが目の前にいるみたいに、羨望の眼差しを向け、高揚感を漂わせていた。
彼女のピアノをそれほど気に入ったらしい。
「おお。そりゃいいわい。で、お嬢ちゃんのリクエストは何じゃ?」
「!」
女の子の笑顔が消えて、顔を真っ赤にして俯いた。
全員がジョセフに冷たい視線を向けた。
(ワシ、何かマズいこと聞いたかのう?)
「!」
ちょいちょい
由来は女の子を手招きして、耳元で話しかけるように促した。
ヒソヒソ
(ん?)
承太郎はその動作が気になった。