第6章 忍び寄る“影”(敵)
「知っとったのか!」
「多分…音楽関連で一度だけお会いしたことがあります」
『!』
こんな偶然あるだろうか。
彼女が承太郎とホリィと出会う以前に、承太郎の父親と面識があったことを、誰が予想できたのか。
(親父が、コイツに会ったことがあるだと?)
さすがの承太郎も、グラスを落としそうになるくらいたまげた。
もし、ジョセフがこの話題を振らなかったら。
もし、レストランのピアノが故障していなかったら。
偶然に偶然が重なった何て巡り合わせだ。まるで…
(承太郎が由来と出会ったことには、何か奇妙な縁があるからやもしれん…)
ジョセフは直感でそう感じた。
昔、スピードワゴンのじいさんはこんなことを言っていた
『人の出会いというのは、運命で決まっているかもしれない』
ジョナサンじいさんとエリナおばあちゃんが、7年の時を経て再会したように
当の本人の由来は、その時を思い出そうと必死になっていた。
(コンサートか何かで会ったんだっけ?)
プロ相手なら覚えているはず。なのに思い出せない
『空条』という名前は知っていたのに、今『ジャズミュージシャン』という言葉を聞いてようやく気付いたくらいだ
(承太郎。誰かにも似ていると思ったら…)
「へぇ~すごい偶然ですね。承太郎はジャズが好きなのかい?」
花京院もせっかくなので会話に入った。
「親父の影響で馴染み深いってくらいだ」
つまり『好き』という解釈でいいらしい。
その様子からして、どうやら母親だけでなく父親とも仲が良さそうにも思えた。
(だから彼女の演奏を、誰よりも熱心に聴いていたのかな?)
承太郎はジョースターさんやアヴドゥルさんや僕よりも、ずっと演奏に集中していた
あの承太郎が何かに夢中になるなんて、全くもって意外だった
「何かの縁かもしれないし、ジャズもいいと思うよ僕は。僕もいつか機会があったら聴いてみたいな。な、承太郎」
「フン」
「…そうですね。時間があったら……」
この時私は多分、口約束で返事をしていたと思う
きっと承太郎も同じこと考えているんだろうとも思った
ジャズに興味が無いわけでもなかったけど、今後の旅のことを考えて、約束を守れる自信がなかったんだ
そして、“彼のために演奏したい”なんてことは、全く考えてなかった…この時は……