第6章 忍び寄る“影”(敵)
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私はどこか違和感を覚え、音が聞こえる方へ目を向けた。
そこにはピアノと、周りには大人が数人ほどいた。
(ん?あれは…)
ポーン、ポン、ポン
何回も単発的に音を出しているところから、多分チューニングをやっているんだ
でもその人たちは、明らかに困った表情でいる。何か不具合が起きて、途方にくれているらしい…
チューニングの手つきから見て多分、このレストランの従業員であるだけでピアノに関しては素人だ
私はこっそり席を離れて、そばへ近寄った
「あの…どうかされたのですか?」
「あ、いえお客様。ピアノの音が前よりも悪くなって。調律技能士を今から呼ぼうにも、今夜の演奏には間に合わず…」
レストランの従業員の男が弱々しい声で説明した。
(やっぱり…)
音が明らかに違う。安定していない
「少し…見せていただけますか?」
「え、ええ…」
私は取りあえず、どの音が狂っているのか正確に把握するため、片手で鍵盤を押してみた
ポーン、ポーン、ポーン
そして、適当な曲の伴奏を軽い気持ちで弾いてみた
「!。お客様はピアニストなのですか?」
「そんな大げさな者ではありません。ただの食事客です。それか通りすがりの女子高生でまだ子供です」
これは…
『“白の陰影”(ホワイトシャドウ)』
ヒエェェ~~
私はピアノの周りの空気を冷やした
一般人である従業員には何が起こっているのか理解できない。
急に寒くなってきた、今度はエアコンがアホになったのかと混乱した。
取りあえず、室温の30℃から23℃まで低くした
(こんなものか)
あとは音が直ったか確認すれば。今夜の演奏に間に合うように
今さっき確認した狂った音全てを含めた曲といえば…“あの曲”でいいか…
「確認のため少し弾かせていただきますが、よろしいですか?」
「もちろんです。むしろこちらからお願いします!」
私はピアノの椅子に座り、高さを調節した
最後に弾いたときとは違い、今は圧底のミリタリーブーツを履いているから、いつもとは違う高さにした
そして静かに鍵盤に両指を置き、弾く前にピアノに一言断った
(君を少し弾かせてもらうよ…私が初めて習った特別な曲。『カノン』を)
その瞬間、室内いっぱいに優しい音が溢れた。