第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「え……“育て”って……」
アンはこれ以上聞くことができなかった。
いや、聞いてはいけない気がしたと言った方が正しかった。わ
「私はいつも思うんだ……人ってのは、奇妙なものに対して、好奇心を抱き興味本位で近付いたり、逆に怖がって距離も取ったりして、ホントに何をするか分からないなって」
ルルルルルルッ
向こうから、列車が到着した知らせのベルが鳴った。
時計はもう2分を過ぎてしまったが、列車が出発するまでもう少し時間がある。
「私は昔から普通とは少し違ったんだ。だから周りの人は、普通じゃなかった私を好きになってくれなかったの」
・・・・・・・・
「普通じゃなかった?」
由来は軽くうなずいた。
「……生まれつきのもので、除去することもできないから受け入れるしかなかったの」
だから私のスタンドは、文字通り、
“影”のように切り離すことはできない“白”い“像”(ビジョン)、
“白の陰影”(ホワイトシャドウ)と呼ばれている。
そのせいで不幸になった人間もいた。
だからこの私が好かれないのは当然の報いなんだって、気付くのが遅かった。
「血もつながってないのに、“あの人”は、けったいな私を面倒見てくれて、私を好きになってくれて、この髪留めをくれた。女の子らしくなってほしいなんて願いを込めていたらしいけど」
由来は不器用な苦笑いを浮かべた。
「まあたとえるなら、私にとってこれは、ニューヨークに建つダイアモンドでコーティングされた高層ビルよりも貴重かな」
もっとも、その“感謝”ってのはもうできないけど…
アンみたいな子供には、あまりにも重すぎる話だった。
しかし心のどこかでは納得していた。
由来は“人”として何かが欠落していたことを、何となく感じていた。
もちろん幽霊船のときは助けてくれて、ホテルでも優しくしてくれていい人だと思っている。
でも、喜怒哀楽が薄いというか、普通の人に備わっている“何か”が足りないような気がしていた。
まるで“心”がないような…