第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
ポルナレフはフランス人で女性にはフレンドリーで優しく接するポリシーのようなものがあった。
気遣うといっても、日本人のような「相手に迷惑をかけたくない」というモノとは、少しばかり違った。
(とこんなことを聞いても、同じくお堅いコイツが答えるわけないか…)
そう思ったが、承太郎は一つため息をついた。
「アイツはただ慣れてねえだけだ。その内慣れれば自分から話すだろ」
「!」
承太郎からしたら自然な回答をしたつもりだったが、ポルナレフは何か違和感を覚えた。
(え、まるでよく分かってるみたいな口調だな…)
コイツらそんな仲良かったか?
いやでも今さっきまで全く話していなかっけどなあ…
フランス人の俺にゃ日本人の感覚が今一つ分からねえぜ
一方由来は窓口、ではなく駅中の柱の角で息を潜めていた。
(誰かの視線がしたけど、まさか敵…?)
その敵はこの柱の反対側にいることは間違いない。
さっきメモ帳の切り取ってゴミにしたのは、あの場から離れるための口実を作るためであった。
お出かけならともかく、些細な用事なら付いて来ることはないだろう。
(さっきは焦った。ポルナレフさんみたいな人、私はどうやら苦手みたいだな…)
そして、この柱の向こうにいるのは誰なんだ?
スタンドを使って、柱の向こうをチラッと覗いた。
(え?この子は…!)
由来は柱から顔を出したら、そこには…
「アン?」
「由来!」
ホテル前で別れたはずのアンが、駅前のこんなところにいた。
「何でアナタが?」
「えっと…見送りたかったけど、何か勇気が出なくて……」
どうやら、今までの自分の悪行を反省して、迷惑をかけた相手を堂々と見送ることをためらっていたらしい。
今までは威勢がよかったのに、変なところで弱気になっている。
弱気というか、頬を赤らめて何だかモジモジしていた。
「…分かった。君のことは伝えておく。あと今の私は人のこと言えないけど、女の子独りは危ないからできるだけ早く親と合流してね。じゃ」
「あ!待って!その…由来、体調は大丈夫?」
「体調?何でそんなことを聞くの?」
「昨日はあまり顔色が優れなかったし、一昨日の深夜も玄関前でずっと起きてたでしょ?だから…」
「え?ちょっと待って……今何て言った?」