第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
承太郎は顔を見ようにも、彼女のフードが邪魔で見ることが出来なかった。
今彼女がどんな顔をしているのか気になった。
もしかして泣いているのかと思った。
「ごめん。こんな重い話して。ただ、ホリィさんを助けたいって気持ちは私にもあるってことだよ…」
「……そうか」
「そういえば自分には言わなければならないことがあったな」と、承太郎は思い出した。
「おふくろの看病とか…お前には色々助けられた。遅くなったが、ありがとうよ」
「え…」
初めてお礼を言われ由来はフリーズした。
あくまで衝撃的なことであり、決して自分の能力ではなく。
そして彼女も、「そうだ。私もお礼言おうとしてたんじゃん」と思い出した。
「いや…むしろお礼を言うのは私だよ。いつもアナタに助けられて、私の力不足で…」
「力不足?力を“奪われた”と違うか?」
由来はフードを外して承太郎の顔を見上げた。
ゴゴゴゴゴゴゴ
「ど…いうこと…なの…?」
2人の間に緊迫した空気が流れる。
「…いや、何でもねえ」
承太郎はふと、椅子の上にある由来の右手が目に入った。
そして、船が爆破された土壇場で気付いた、あの異常な冷たい感覚を思い出した。
「……」
気付かれないようにゆっくり、自分の左手の平を彼女の右手の甲に重ね合わせようとした…
「ジョジョ!やっと見つけた!」
『!』
花京院が早足でこちらに来て、由来は反射的に立ち上がった。
「すでにホテルの中にいたのか…少し損した気分だ」
四方八方遠い場所をハイエロファントで探していたので、花京院は肩を落とした。
(今日は何故かジョジョに振り回されるなあ…)
「悪いな花京院」
「いや、ジョースターさんから話は聞いてる。兎神。君の方も無事で何よりだ」
「……頼もしい人がいてくれたおかげで」
私を“名字”で呼ぶこの人は、間違いなく花京院くんだ
花京院は、これから本当にチケットを買いに行くかと聞いた。
承太郎は行くと答えたが、由来には部屋に戻ってろと言い、彼女は素直に従った。
「じゃあ、よろしく頼み申す」
2人にちゃんとお辞儀をしてから立ち去り、花京院はその背中を見送りながら、渋々隣の承太郎に聞いてみた。
「もしかして、僕、お邪魔だったかい?」