第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
由来が承太郎を含めた仲間といる時は大体、敵と遭遇した時や、敵に警戒しながら一般人を含めた輸送機関で移動する時だ。
ジョセフが皆に自由時間を与えれば、彼女は独りで部屋に籠もることが多い。
だから、今のように休憩時間に誰かと一緒にいることも、その人の休憩を見るのも、とても新鮮だった。
特に承太郎は。
(人間に興味がなさそうって思っていたけど、まさか私についてそこまで…
この人…私と出会ったときからそんなこと考えていたのか?)
私が近くにいたときも、「慣れない」といつも思っていたのか?
由来はまたギャップというものを感じた。
(…慣れないことはするもんじゃあないけどな)
この時何かが吹っ切れた。
「…その推理力を生かして将来心理学者とか学者になった方がいいと思うよ」
「あ?」
「そんなこと。今まで1度も言われたことなかった。アナタの家で言ったとおり、確かに今の私には身内がいない。アナタの言うとおり、独りだった」
悲しい話の割には、彼女は全く悲しいとか切なそうではなかった。
むしろ、わずかに笑みを浮かべているようにも見えた。
まるで、自分自身が孤独であることをよく自覚して、今更悲しみに浸るなんてバカバカしいと思っているみたいで。
「別に独りが嫌だって思ったことはない。慣れているからさ。けど、今回皆と行動を共にして、今まで経験したこと無いことばかりで、確かに自分は戸惑っているんだな。アナタの言うとおり。今自覚した」
承太郎はさっき、彼女の家事情に触れることに少し躊躇していたが、由来は全然気にしていない様子で少しホッとしていた。
むしろ彼女は、承太郎に感謝の念を抱いていた。
「それに、さすがジョースターさんだな。私の監視を任せるとは。アナタと似て抜け目ない。年長者なだけあって頼れる」
「それを本人の前で言えば調子に乗るだろうぜ。アイツには黙っとけ」
承太郎は祖父に対してはいつも辛口でいるが、他人に身内のことを誉められたので、実はちょっとだけ嬉しかった。
このことが由来に悟られないように平然を装った。
「…羨ましいです。そんな家族に囲まれて」