第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
(え、速…)
いくらスタープラチナが素早くても、上の階にいるジョースターさんのところへたった34秒で行けるわけない。
そしてペットボトルを私に差し出すかのように私に向けていた。
「それって…」
もしかして、私の?
承太郎は皆と合流しに行ったのではなく、水を買いに行っていたのだ。
それも、貧血気味の彼女のために。
由来はペットボトルを受け取って、一口飲んだ。
普通の水のはずなのに、すごく意外な人に親切にされたせいか、何故かこの時は美味しく感じた。
貧血になった場合、水分を摂った方がいいことを、彼女は知っていた。
だから、なるべく早く部屋に戻って、水道水でも飲もうと考えてた。
しかし、さっきの路地ですでに目眩が襲っていたほどに疲弊していたから、体力的にきつかった。
だから、承太郎が持ってきてくれて、少し楽になった気もした。
『自分の身を挺してまで、私を庇ってくれたことがあるんです。それくらい本当は他人思いで優しい人なんです…』
(確かに私自身が言ったことなのに、何かとても恥ずかしい気が…)
このことを聞かれなくて良かった…
「悪いけど、アナタの好意に甘えてここで5分くらい休ませてもらうよ。先に上でジョースターさんと合流していて。すぐ追いつく」
ホテルの中で襲撃されることはない。
それに“今”は考えたいことがあるから、独りにさせてほしい。
「……」
スタッ
しかし承太郎は由来を置いて立ち去ることはなく、彼女の隣の空席に座った。
「!」
“ゑ?”(え?)