第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
「だ…大丈夫。いつもの貧血だから…慣れている」
承太郎の顔を見ずに独り言のように呟いた。
(“いつも”だと?)
「2年くらい前から定期的に起こるんだ。多分、時差ボケでいつもよりヒドいだけ…ッだよ」
由来は心配かけまいと、何とか立ち上がった。
(さっきの銃声の時に外傷を負ったのか? いや、見たところそんな傷はねえ。コイツ白い服を着ているから、ちょっぴりでも出血すれば、かなり目立つはず。銃傷となればかなりだ)
俺は医者でもねえからそこんとこの知識はねえが、今のコイツがかなり無茶していることは分かる
本当にただの貧血なのか?
「それで…ジョースターさんの指示は何だったの? 早く…行かないと」
「………」
承太郎と由来は、ホテルのロビーに着いた。
花京院とは合流できなかったが、これ以上敵と遭遇せずに済んだ。
由来は承太郎の手を借りず、自身のホワイトシャドウを動く手すり代わりにして、何とかここまで来た。
上の階で皆と合流すべきだが、彼女が体調が悪そうだからここで休ませることにした。
「ごめん。またアナタに迷惑をかけて…」
「いいから座れ」
彼女が謝りきるよりも先に、すぐ座らせた。
「大人しく待ってろ」
それだけ伝えて、承太郎はどこかへ行ってしまった。
恐らく皆と合流しに行ったのだろうと、由来は考えた。
(「座って待て」って、犬みたいだな…「お座り、待て」みたいな…)
なんて下らないことを考えながら、窓の外の美しい風景を眺めた。
シンガポール独自の高層ビルと、その背景に夕焼けが写っている。
(海の景色もいいけど、これまたいいな…)
さすが観光都市、シンガポールだ。
遊びに来たわけじゃあないけど、この景色を見るくらいは許してもいいだろう…
再び目眩に襲われて、視界が真っ暗に覆われた。
腕が…
チャプ
(?)
耳元で水音が聞こえて気付いた。承太郎がすぐそばで立っていた。
水が入ったペットボトルを持っていた。