第5章 シンガポールの“暇”(いとま)
ググッ
偽警官は何とか発砲しようと、凍った指を動かした。
発砲した時の熱で少しは手を温めることが出来るかもしれないと、最後の足掻きをしようと…
「引き金を引くことはオススメしません。凍って壊れやすくなった腕が衝撃で砕けますよ」
ゾワァ…
男は拳銃を手放した。
(確かに、私の能力は水がなければ発動しないしそれなりのデメリットも数ある…しかし)
彼女はそれを拾った。
「成人の体内の6割以上は水分で出来ているんです。手元に水がなくても、
・・・・・・
全員まとめて凍らせることは、訳ないんですよ」
今までは人質や仲間がそばにいたからできなかった。
無関係の者もいるあの飛行機の時も。
でも敵しかいない状況において、何の躊躇も必要ない。
「とはいえ、それを知らず一斉に襲ってくるとは、アナタたち…スタンド使いではないですね」
氷から伝わる生命エネルギーから分かる
最も、ここにいる誰もが、今もこうして私が背後に出しているホワイトシャドウに、全く気付いていない
「お、俺たちはある男に金で雇われたんだ…「この場所で、由来ってガキを捕まえれば、1万シンガポールドルを1人1人に分けてやる」って」
男はあまりの氷の冷たさで観念したのか白状した。
(つまり、その命令した男がスタンド使いで私を捕縛しようとしたってわけか)
そしてソイツは、花京院くんに乗り移っていた。いや、単に化けていたってところか
あの偽物が書いた手紙の字はとても汚かったから何となく気付いていた
ともあれ一刻も早く男を見つけ出して、ジョースターさんたちに合流しなければ
その前に…
「そんなお金だけのために…人殺しもしたんですか?」
由来がまだここにいる理由は、その命令した奴が誰かを聞くだけでない。
「殺しちゃいねえ! これも命令されたんだ~ッ。やった奴は致命傷じゃあねえから、今病院に運ばれてるところだ!」
ビシビシリッ
「ヒヒィッ!!」
男の足にびっしり張り付いた氷は、さらに上へ広がった。
「何の証拠があって、それを信じろと? 命令した奴が悪だが、それに乗ったアンタも…」
(ん?)
由来は男の腕を注視した。
「ッ! 貧しい毎日を怯えて生きている俺たちの気持ちなんざ、親のすねかじって楽に生きるお前にぁ!分からねえぜッ!」