第5章 【よん 雛鳥はテンガロンハットが苦手】
「うん、見なかったことにしよう。私は何にも見てない。ただ、ちょーっと気分で方向を変えようと思っただけ」
嫌な汗が背中を伝う。
関わったら確実に面倒事になる。絶対なる。
そもそも海賊と海で出会って何事もなくすれ違える筈がないし。
大慌てで帆を張り直す。
風はそんなに吹いていないけど、これで多少進みが早くなると思う。
あと、なるべくあからさまにならないように、
水の――ウエンディに協力してもらうのも忘れずに。
「ウエンディ! お願い、ゆっくりでいいからあの船から遠ざけてほしいの」
『ええ、いいわよ。ただちかくでとくしゅなながれができてるから、おおきくいどうはできないわよ?』
「うん、それでいい! とにかくあの船と関わりたくないの」
『わかったわ』
風の力と、ウエンディが水を動かす力に押されて、
少しずつ方向が逸れていく。
次の瞬間、唸り声を上げる強風が一吹き。
ぼふ、と微かに音が聞こえた。
「きゃ…………!」
思わず髪を押さえて目をつぶる。
身体が一緒に吹き飛ばされてしまうのではないかというくらいとても強い風だった。
でも、タイミングがいい。さっきの強風できっとかなり船から離れられた筈。
恐る恐る目を開ける。
「……あれ? 進んでない?」
あれだけの強風なのに、大して進んでる感じがしない。
相手の船も動いているとはいえ、さっきより距離が近くなってる。
船の帆ってちゃんと張ったよね!?と上を見上げて、泣きそうになった。
だって……
「穴が空いてる…………!!」
帆にヒナの頭と同じくらいの大きさの穴がひとつ、空いていた。