第1章 日常のはなし。
時計をちらりと横目で見ると、今日は日曜日。
その事を確認すると、思わず零れるため息。
今日は、一週間分の食料を買い溜めに行く日である。
それは別に良いのだけど、会いたくないにも関わらずやけに遭遇率が高い人物が居て。
別にスーパーに行くくらい雑な格好で良いだろう。そう思って引き出しを開けて一番上にあったTシャツとスウェットを身に着ける。
そして帽子を被った。
これは身バレ防止の為だ。いや、有名人でもなんでもないんだけど、さっき言った通りにバレたくない危険な人物が居るのだ。
財布をポケットに放り込んで、唾をゴクリと飲み下した。
意を決してドアノブを握り、開くと勢い良く走り出す。
あの人たちに見つからない様にするにはスピードが最優先なのだ。
「あれ、偶然ですね!」
「あっ」
「その格好、スーパー行くんですよね。僕もご一緒しても?」
そう言って私の横に並ぶ褐色肌の異常に顔が整っている男。
安室透とは魔の言葉である。
「……どうせ断っても着いてくるでしょ…」
「さすが!僕の事良く分かってますね!」
もう言い返すのも諦めてため息しか出てこない。
私のストレスの一部は安室透だ。この男と出会って3キロは痩せた気がする。
ふと、思い出したくもない記憶が頭を過ぎった。
『初めまして、見ない顔ですね』
『初めまして。この度ポアロでバイトを始めさせて頂く事になりました、安室と申します』
ニッコリと爽やかに笑った安室透。あの時は只のイケメンだなと思っていた。
でも、あの雨の時。
『……安室さん?あ、やっぱり。
なにそんな所で座っ………何その怪我、病院行く?』
『…さん……?大丈…夫です…から』
『いや、大丈夫な訳ないでしょ。あ〜分かった!病院嫌いなんでしょ!』
『違っ…』
『大丈夫大丈夫。私の家で手当してあげるから。』
そうだここだ。ここから私の人生は狂い出したのだ。
見ていられないくらいの怪我で、手当を強要してしまうのも無理は無いと思う。本人は頑なに病院を嫌がるものだから、少し困った。
イケメンにも弱点あったんだなと思って楽しくなってしまった、というのも否定できないが。
でも隣でペチャクチャ話し掛けてくるこの男が今ピンピンしているなら、私の行動はあながち間違ってなかったのだろう。