第1章 寝癖
=赤ちゃんゆび=
「さあ、眠れ」
仕上げの柔らかい口づけを受け止め甘い虚脱感に包まれる中、謙信様は優しく囁いてくれる。
でも私、今日は心に決めてたの
「謙信様が先に眠ってください」
いつも私を先に寝かせて、私より先に起きている。
良妻賢母じゃないけど、好いた人を先に寝かせ、早く起きて身支度を整えておはようって言いたいのに。
「それはならん。お前は俺より先に寝るのだ」
謙信様は私の訴えを聞き入れてくれる気配はなさそうで
「私、謙信様の寝顔を見たいし、朝だっておはようって言ってあげたい」
いまにも閉じそうな瞼を懸命に押し上げ、願っても
「それは聞けぬ願いだ」
優しく断られ、かわりに自然に差し出された手を、すこし残念な心持ちで包みこむ
「いつものように、してくれないか」
「はぃ」
謙信様の小指を握ると、安心したようにため息をつく
「お前に小指を握られ、お前の寝顔を見ないことには安心して眠れないのだ。わかってくれ」
「寝顔もないとダメなんですね?」
「そうだ。でないと落ち着かん。朝起きる時も、お前が隣にいるのか確認したい」
私の決心よりも謙信様の気持ちの方が何倍も熱意があって、到底敵いそうにない。
それに、質の良い眠りで疲れを癒して欲しい。その助けができるなら、喜んで眠ろう。
「ふふっ。これはもう儀式みたいなものですね。明日も明後日も、ずっとずっとそばにいます……だいすきだか、ら……」
「俺は大好きでは足りないが……おやすみ、」
おしまい。