第1章 寝癖
=白昼夢=
――何やってんの…これは、夢だよ。
汗を流し働く自分に、空からそれを俯瞰するもう一人の自分が言った。だからと言って手を止める気にもならないのは、夢の中だから、だろうか。
愚かにも見えるくらい、単調な作業はひたすらに続く。
しかし漸く岸と岸の中間で、積み上げていた石同士は繋がり。
向こう側へと渡る橋が架かる。
そして夢の中の俺はみっともないほど、大きな声で誰かの名前を呼ぶのだ。誰かのために架けた、その橋の上で。会いたい、と泣き喚きながら、精一杯伸ばした腕は、空を切って虚しく落ちる。
その姿は情けなくもあり。
でも、今の自分より余程、生をまっとうしているようにも映る――
かたり、と庭先の物音に、意識は急速にひきあげられた。
いつの間にか、文机に突っ伏して眠ってしまっていたらしい…
ばっと顔を上げ、目を見開くも、此方を見つめ返してくるつぶらな瞳にため息をつく。
そして夢の中さながらに、伸ばした手に気付き。
誰に見られていた訳でも無いのに、気恥ずかしくなる。すこし苛立ちながら、湿った額に貼り付いて鬱陶しい前の髪を掻き上げた。
「いや、お前が見てたんだったね…ねぇ、誰にも言わないでよ」
分かるわけないのは承知の上で話しかけると、やはり獣はほてり、と首を傾げるだけ。
「…お前も、そう思うだろ。俺にはそんなの、必要無いんだ」
こんな弱音を、誰にともなく聞いて欲しくて。
相手からの返事は勿論ない、あまつさえ、目の前をひらひらと飛ぶ虫に興味を奪われてしまったらしい。