第7章 Heaven or hell
「…………さん、……き、さん」
ん…
間接照明に照らされた、不安げなコウタの顔
「嫌な夢でも見た…?」
「あぁ…」
嫌な汗をかいた
これもあの悪夢のせいだ
コウタがギュッと俺を抱きしめる
「汗、かいてるから…」
「いいよそんなの」
骨張った手が、俺の髪をそっと撫でる
「大丈夫だよ
雅紀さんは、大丈夫」
「コウタ… シャワー浴びてくるよ」
ベッドを降りるとサイドテーブルに置いた携帯のランプが光っているのが目に入った
「あ…」
メッセージの文字に自然と頬が緩む
わざと交換しなかったのにな
《兄貴にアドレス教わりました
勉強、見てくれてありがとうございました
二宮 和也》
「…」
「…雅紀さん」
「うん…?」
「…うまく行くといいね」
「何がだよ…」
あんな事があってから、暫くは人間不信だった
男子部と女子部に分かれている中学
それだけでだいぶ助けられたものの
同級生達の興味の対象である女の子の話題には触れようとしなかったし、耳にも入れたくなかった
孤独な中学校生活を送り、エスカレーター式の高校でなく、都内から少しばかり離れた男女別の高校を受験した
女の人が怖かった
かといって男が好きなわけでもない
そんな俺が初めて抱いた相手はゲイのコウタだった
コウタは現在(いま)を、俺は過去を上書きする為に
傷を舐め合うようにして抱き合った
コウタを見ていたから、分かったんだ
誰一人知り合いのいない高校で見付けた、ふわふわした中性的な同級生
コイツもきっと、男に抱かれてるって
そうして声をかけたのがおーちゃんだった