第4章 嘘つきは恋人の始まり
茂子ママは話上手の聞き上手で
今まで出会った色んなお客さんの話をしてくれた
…ホントに色んな人がいるんだ
大きな会社の社長さんで威厳があって
だけど彼氏の前ではすっごく可愛くなっちゃう40代の男の人とか
ダメンズばっかり好きになって
店に来るたび『捨てられた』って泣く、お寺の副住職だとか
女性として生まれて、好きになるのは男の人だけど
性別違和があって性適合手術を受けてようやく本来の自分を取り戻せた、っていうバックパッカーだとか
「それからな、」
「まだあるんですか!」
「あるある!
演歌歌手を夢見て上京して、惚れた男に騙されて無一文になって
路頭に迷った末に最終的にスナックのママになったしょうもない男の話とかな」
「ママ、」
「それって…」
「東京の大都会には色んな人がおる
みんなそれぞれ色んな想いを抱えて生きとる
幸せの価値観は十人十色
それでもみんな幸せを求めて生きとるんよ
幸せになりとうない人なんておらんからな」
「ママさんは…今、幸せですか…?」
「幸せやで。
山あり谷ありの人生やったけど…なんだかんだで今も恋をしてるからかな」
「恋、」
「人を好きになれるって素敵な事よ
カズくんにもきっとそれが分かる時が来る。
なんて ―――
寂れたスナックのママの“戯言”やね」
「ママ、上手い!」
人を、好きに…
俺にもやって来るのかな
いつか、そんな日が…