第2章 二人の関係
「酷いと思わない?」
「酷いって、何がですか?」
「だって僕はそういう意味で『好き』って言ったんじゃないのにさぁ」
口に運ぼうとしてるパフェの中のアイスはもう溶け始めていて、
「子供だったから本気にされてなかったんだよね
でも、」
「でも…?」
「三年前にお父さんが亡くなって、」
「え…? 親父さん、亡くなったんですか…」
「うん。事故でね。35歳だった」
早すぎる父親の死は
多感な時期の智さんにとって受け入れ難いもので
「世の中全てが敵に思えた。
同情の目も、祖父母の優しさも
全部全部…苛立ちの対象にしかならなくて、」
毛色の違う友達と連んで夜遊びを覚えた
翔さんからの連絡も無視して
一人になりたいのに、一人になりたくなかった
バカな連中と騒いでいる間だけは
寂しさを誤魔化すことができた
「…この先も聞く?」
「…っ、」
「あんまりイイ話じゃないけど」
「……聞く。聞きます」
聞いて欲しそうだと思ったんだ
智さん自身が話したいんじゃないかって
「弟、だから。
俺、智さんの弟みたいなモンなんでしょ?
兄貴の事知る権利あるかな…って、何言ってんだ、俺…」
「……ありがと、カズくん」
そこから先の話は
俺もなんて言っていいのか
こんなにふわふわした智さんからは想像もつかない程で
だけど妙に納得できる部分もあって
「ね? 重いでしょ
お兄ちゃんだなんて思いたくない?」
そう言って器の下の方に溶けて残ったアイスをスプーンで突く智さんに、俺は、
「どんな過去があったってアンタには変わりないだろ
兄貴は兄貴だよ」
情けないけどそう返すのが精一杯だった