第1章 翔べない鳥
“普通”の家庭に生まれて
“普通”に親からの愛情を受けて
“普通”に育っていたとしたら
こうして覚悟を決めて
ビルの屋上に立つ事も無かったんだろうか
未練なんて無い筈なのに
鉄柵に掛けた手足がカタカタと震えて
次の一歩が踏み出せない
「こんな人生とっとと終わりにするんだろ...?」
そうだろ、なぁ? と自分自身に問いかけた
ここを越えればきっと
きっと楽になれるはずなんだ
鳴り止まない取り立ての電話
公園の水で空腹を凌いだ夜
極めつけに、だ
アイツ等...悪夢の様な二択を迫りやがった
『臓器売るか
構成員(オレ達)の穴になるか
好きな方を選んでいいんだぜ?』
突然吹いた強い風に鉄柵が揺れて
そこを掴む手にギュッと力が込もったのは条件反射か、それとも ___
「教えてやろうか」
背後から投げ掛けられた言葉に
思わず身体がビクリと反応した
「人間はどう足掻いたって鳥の様には翔べないんだよ」
声のする方を振り返るとそこには
暗闇と同じ色のスーツを着た男が一人
いつから居た?
つーか、アンタ誰だよ
「....っ、そんなの、」
「知ってるって?
此処から落ちたらどうなるかも?」
「っ...!」
「甘いな、少年」
「なっ...!」
「シナリオ通りに行かないのが人生ってヤツだ」
急速に腕を引かれて
気付いた時には俺は既に
この男の腕の中に抱き竦められていた