第1章 翔べない鳥
「――― 他に何か心配な事や聞いておきたい事は?」
「…今の所は…大丈夫、です」
「ホントに大丈夫? カズくんめっちゃ脱力してるけど
まぁわからない事は明日から僕にその都度聞いてね! ね?」
翔さんの仕事の事や、家の中の事
必要最低限のことを一通り聞かされた
法律関係の人、らしい
…だからか、翔さんに任せておけば大丈夫って
そういう事だったのか
家の中のことについては難しい事は何もなくて
翔さんの仕事部屋にあるもの以外は自由に使って構わないという事
家事は基本的に智さんがやるから、俺はできる範囲でそれを手伝えばいいという事
それから、
『…高校に、ですか…?』
『あぁ。智も通っている高校だ』
ニ学期制の私立高校
有名だから俺でも知ってる
医者の息子とか議員の娘とか、とにかくイイトコのお坊ちゃん、お嬢さんばかりが集う金持ち学校
準備が整ったらそこに通いなさい、と翔さんは言うけど、
『……いいです、俺、』
『なんで?! 一緒に通おうよ! 楽しいよ?!』
『マグロ漁船には乗りたくないし、アイツ等のオモチャになるつもりもないけど翔さんに丸投げするわけにはいかないし、少しでも金返さないと、』
金の心配は無用だ、って
そう言われるだろうなと思ったけどそれだけじゃなくて
ほんの数時間前には絶望に追い込まれて死を覚悟した身
そんな俺が有名私立に通うなんて ―――
『元々、子供に親の借金を返済する義務は無いんだよ』
『…え?』
『そいつ等のやってる事は違法。
だから“大丈夫だ”と言ったんだ』
『…そうなの…?』
なんだか全身から力が抜けて、
それを見ていた智さんにクスクス笑われたけど
なんだか思考が追いつかない
闇金からは早々簡単に逃げられないだろうと思ってたけど
そっか
俺が払う義務はないんだ…