第2章 夢か現か
「あの……どちら様ですか…?」
真夜中。
まだ覚醒しきっていない私は叫ぶ事も忘れ、冷静にそう尋ねていた。
目の前にいたのは見知らぬ男性で…しかもその人は、あろう事か上半身裸で私の体に馬乗りになっている。
「へぇ…ずいぶんと冷静だな」
口元に笑みを浮かべるその人。
怖いくらい綺麗な顔をしていて、瞳はルビーのように紅く透き通っていた。
そして耳は少し長く先が尖っており、その耳の上辺りには左右角のような物が1本ずつ…
(あぁそうか…これは夢…)
だってどう見ても彼は人間じゃない。
ファンタジー小説やゲームにでも出てきそうな"悪魔"…とでも言うべきだろうか。
(…おやすみなさい)
心の中でそう呟き、私はもう一度目を閉じた。
しかし…
「コラ…何寝ようとしてんだよ」
「きゃあっ…」
フーッと耳に息を吹き掛けられ、びくりと体を竦ませる。
このリアルな感覚……夢じゃない…?
「これは夢であって夢じゃない」
「…え?」
よく解らない事を言う彼。
ぽかんとしている私の手を取ると、その指先を甘く噛んできた。
「っ…」
「やっと見つけた…今日からお前は俺のモンだ」
「……、」
一体彼は何を言っているのだろう…
けれどその綺麗な瞳から何故か視線を逸らせない。
「俺はインキュバス…淫魔とか夢魔とも言われてるな。聞いた事くらいはあるだろ?」
「………」
インキュバスってアレだよね…?
女の人の夢の中に入り込んで、イヤらしい事をするっていう…
でもそれは架空の存在じゃ…
「お前からは極上の精気を感じる…」
「え……ちょっ…!」
首筋に顔を埋めた彼がそこに舌を這わせてきた。
まさかとは思うけど私を襲う気…!?
「な、何してるんですか!」
「何って野暮な事聞くなよ…俺はインキュバスだって言っただろ?やる事はひとつしかねぇ」
「……、」
「今からお前を食う」
「…!!」
(やっぱり…!)
「ちょっ…待って下さい!私なんか食べても美味しくありませんから!」
無我夢中で抵抗する。
けれどその両腕はあっさり捕らえられ、いとも簡単に頭上でひと纏めにされてしまった。
「お前ほど美味そうな匂いをぷんぷんさせてるヤツなんてそういねぇよ…。他の淫魔に目ぇ付けられる前に俺のモンだってマーキングしとかねぇとな」
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