第3章 壊される日常
「ちょっと葵、あんた顔色悪いけど大丈夫?」
「…梨乃……」
1限目の講義が終わった後、私の元へやって来たのは友人の梨乃だった。
今朝の事を思い出してしまうと、どうしても平常心ではいられない。
おまけに体は怠く、今朝は朝食も抜いてしまったのだ。
(あれは夢じゃなかったの…?)
「医務室にでも行ってきたら?」
「うん…そうしようかな…」
このまま授業を受けても集中出来なそうだし…少し休めば体調も良くなるかもしれない。
梨乃は「私も付き合おうか?」と言ってくれたが、それをやんわり断り1人医務室へ向かった。
(そう言えば医務室に来るのって初めてかも…)
1時間くらいだったらベッド貸してもらえるかな…?
少し緊張しながらドアをノックする。
「失礼します」と断って開けたドアの先にいたのは、白衣を着た背の高い男性だった。
(お、男の人…?)
小中高と学校の保険医が女性だった私は、勝手にこの大学の先生も女の人だと思い込んでいた。
私の姿を見るなり、掛けていた眼鏡をくいっと押し上げる先生。
(っ…、この顔……)
その顔には見覚えがあった。
目の前にいる彼は、昨夜私の部屋に現れたあの淫魔によく似ていて…
(い、いやいやまさかそんな…!)
あまりのショックで私は目までおかしくなってしまったのだろうか…
そもそも昨日のアレは夢で…
「…どうした?」
「…!」
不意に声を掛けられ、びくりと体が強張る。
(…声までそっくり……)
本当は今すぐこの場から逃げ出したかったが、「体調が悪いので少し休ませてほしい」と何とか声を絞り出した。
「…ふーん?」
「……、」
まるで私を品定めするかのように見下ろしてくる彼。
そして腰を屈め、私の耳元に顔を寄せてくる。
「せ、先生…?」
「クッ……昨晩のセックス…手加減してやったつもりだったが、やはり処女にはキツかったか?」
「…!!」
耳元で囁かれた言葉を聞いて確信した。
信じられないけど、この人はやっぱり昨日の…!
「ひゃっ…」
ふわっと体が宙を浮く。
抵抗する間もなく、私は医務室の奥にあったベッドの上に下ろされた。
「ど、どうしてあなたが…!」
「…ここにいるのかって?」
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