第14章 「ありがとう」の代わりに*高尾*
楽しかった時間も終わりに近付き、名残惜しくて寂しい気持ちになった。
私服で街中を好きな彼と並んで歩くことなんて、この先ないかもしれないんだ。
乗る電車が違うから、案内板の示す矢印が逆向きのところで別れることになった。
「高尾、今日はありがとう。おかげで楽しかった。」
「こっちこそありがとうな。お礼のつもりが、俺まで楽しかったわ。」
後ろ髪を引かれる思いだけれど、少し俯き下唇をきゅっと噛み、顔を上げて精一杯の笑顔を彼に向けた。
「…じゃあまた明日ね!」
そう告げて踵を返した瞬間に、腕をぐっと掴まれた。
驚いて振り向くと、彼の顔はいつもの笑顔とは違う真剣な表情に変わっていた。
「…これ。」
鞄の中から彼は小さな紙袋を私に手渡した。
「え…?」
「今日誕生日だろ。…おめでとう。」
突然のプレゼントに私は困惑し、少しの間固まってしまった。
そう、彼から指定された日は偶然にも私の誕生日だった。
だから二人で過ごせるなんて私にとって最高の贈り物だった。
「…何で私の誕生日知ってるの?」
ようやく疑問を口にすると、彼は顔を赤くして言葉を発するのを躊躇った。
「…好きなやつの誕生日なら、ちゃんと覚えるだろ。」
都合のいい聞き間違いじゃないよね?
今、「好きなやつ」って言ったよね?
そんな私の葛藤を見透かしていたのか、彼はもう一度真剣な眼差しで想いを伝えてくれた。
「、好きだ。俺と付き合ってくれない?」
そんなの答えは決まっている。
「私も高尾のこと好きだよ。」って伝えれば、お互い笑顔になって、まるで二人だけしかいないような空気になった。
「ありがとう」の代わりに彼がくれた「好きだ」は、今までで一番私を幸せにしてくれた贈り物。