第11章 チョコレートが好きなわけじゃなく*霧崎第一
ちらりと逆隣の花宮を横目で見ると、興味なさそうに携帯を触っていた。
「花宮も今のうちにねだった方がいいんじゃないの?」
瀬戸が丁度いいタイミングで花宮に話を振った。
「…あ?俺甘いもん嫌いなの知ってんだろ。」
眉を寄せて、明らかに不機嫌ですという表情の花宮に、瀬戸は構わず言葉を返した。
「知ってるけど。じゃあ、花宮は無しってことで。」
「俺手作りがいいなー。」
「甘さは控えめにしてくれ。」
あれ?私皆に手作りチョコ作ってくることにいつの間にかなってる。
まぁ数も少ないし、部活で女子がいない中お世話になってるし、作ってもいいか…。
「おい、誰もいらねぇなんて言ってないだろ。勝手に決めんじゃねぇよ。」
携帯を少し強めに音を立てて机に置いて、花宮はワイワイ騒ぐ空気を止めた。
「でもチョコ食べられないんじゃないの?」
「バァカ。カカオ90%のやつは食えるんだよ。好物だから持ってこい。」
…なんて可愛くないおねだりなの。
相変わらず小憎たらしいんだから。
「…はいはい、そんなにそのチョコ好きなら持ってきてあげる。」
時計を見ると、休憩時間が終わりに近付いていた。
「じゃあ私先行って、午後練の準備してくるから。また後でね。」
まだ寛ぐ皆を置いて、一足先に体育館に戻った。
----------
「花宮、もうちょっと素直に言えばよかったじゃん。」
「そうそう。折角振ってやったのに。」
「鈍そうだから絶対に気付いてない。」
ガムを風船のように膨らませながら花宮を見やる原。
午後練に備えてワックスで額を出しながら溜め息をつく瀬戸。
荷物をまとめながら冷ややかな目で花宮を見つめる古橋。
呆れ顔の3人を花宮は顔を真っ赤にして睨み付けた。
「…うるせぇよ!」
チョコレートが好きなわけじゃなく、欲しいのはお前からの「チョコ」という名の贈り物。