第6章 最初で最後の放課後*笠松*
付き合い始めて3ヶ月が過ぎたけれど、元々クラスメイトだった私たち。
名前を呼ぶタイミングが掴めなかったのと、何となく気恥ずかしくてずっとお互い名字で呼んでいた。
名前で呼んだだけなのに、何故か笠松を別の人のように感じた。
それは「友達」と「恋人」の違いのようなものなのかな?
「か…笠松!日誌書けたし、私先生に出してくる!」
この微妙な空気を払拭しようと、私は席を立ち一度教室を出ようとした。
すると、ぐっと手首を掴まれて足を止められた。
「…。」
自分の名前なのに何故か違う響きに聞こえて、急に鼓動が速まった。
「は……い。」
「…悪い。名前で呼んだ方がいいんだろうとは思ってたけど、結局タイミング逃してた。」
「…ううん。笠松無理しなくてもいいよ?…私は嬉しかったけど。」
「無理じゃない。俺もお前に名前呼ばれて、何か…嬉しかったから。お前にもそうしてやりたい。」
真っ赤な顔で、恥ずかしいのか私と中々目を合わせてくれない。
照れ屋な彼が辿々しく名前を呼んでくれたことで、もう胸がいっぱいになった。
緩みきった私の顔に、幸男は大きな手を押し付けた。
「にやにやすんなって…。ほら、日誌出して帰ろうぜ。」
「うん!」
今日は小さな小さな記念日。
最初で最後の放課後を、私はずっと忘れない。