第50章 眠り姫がくれた奇跡*高尾*
部活帰りの夕暮れ時。
家とは反対方向にチャリを飛ばして、彼女の元へ向かった。
「ちゃーん。」
ひょこっと部屋の中を覗くと、いつもの場所に彼女はいた。
日に当たっていないからか、貧血気味ってよく言っていたからか、透き通るような真っ白な肌。
頬をつんつん、と突いて、隣に腰掛けた。
「今日も暑かったぜー。チャリ全力で漕いだから、また汗かいちゃったし!臭くても勘弁してな?」
もうすぐ夏休みが終わってしまうから、今よりもここに来られる日が少なくなってしまう。
自分がいない時に奇跡が起こってしまったら、嬉しいけどどこか寂しい。
我儘だけど、やっぱりその瞬間には自分も立ち会っていたいと思ってしまう。
「今日も書いとくな。」
彼女の枕元に置いてあるノートを開いて、最近あったことをメモ書きするのも習慣になった。
今日は先輩たちが部活に顔を出してくれて、刺激になった。
後輩たちは圧倒されてたけど笑。
先輩たちもちゃんに会いたがってた。
ちゃんがいないと、やっぱり何か物足りないってさ。
「俺も早く会いてぇよ、ちゃん。」
ぼそりと呟いた一言は静けさに溶けて消えていった。
目の前にいる彼女は真っ白な病室のベッドに横たわっている。
ただ眠っているかのように、規則的な呼吸を続け、目を閉じている。
声が聞きたい。
笑っていても怒っていても泣いていてもいい。
目を覚ましてほしい。
ずっとずっと願い続けているこの願いは、いつになったら叶うんだ。