第46章 6月10日*木吉*
学校帰りに通学路から外れて、会いに行くのが日課になっていた。
今日は学校用の鞄の他に、もう一つ大きな紙袋を持って。
視界に無機質な白が広がる室内に入り、ナースステーションの看護師さんたちに挨拶をして、足が病室へと連れて行ってくれた。
部屋の中を覗くと、ベッドの上でグリップを握りながら筋トレしている姿が見えた。
「鉄平、来たよー。」
「おう、!」
へらっと笑う笑顔に、私もつられて笑みが溢れてしまう。
ベッドサイドの椅子の上に紙袋を乗せて、ちらりと鉄平に視線を向けた。
「今日はね、色々持ってきたの。」
「ん?何持ってきたんだ?」
鉄平に目を瞑るように頼んで、ベッドにかけられている食事用のテーブルに中身をセッティングしていった。
「鉄平、目開けて。」
私の声でうっすらと瞳を開けた鉄平は、テーブルの上に気付いて驚いたように目を見開いた。
「なんかいいことでもあったのか?」
…どこまでが本気なんだ、この人は。
大事な今日が何の日か本当に分かっていないのか、敢えて知らないふりしてるのか。
「今日は鉄平の17歳の誕生日でしょ!…おめでとう。」
テーブルに並べられたのは1と7の数字のロウソクを刺したどら焼き。
リコちゃんから預かったバスケ部の皆からのメッセージカードと誕生日プレゼントのバッシュ。
そして私からのプレゼント。
「さすがに火は点けられないからね。エアーで吹き消して。」
そう言うと鉄平は顔を綻ばせながら、ふーっとロウソクを吹き消す真似をした。
「、ありがとな。」
ぽんぽんと大きな手で私の頭を撫でてくれる感触に、ついにやけてしまった。
「プレゼント開けてもいいか?」
うん、と頷くと、鉄平は楽しそうに包みを開けていった。
中身が顕になると、瞳をぱぁっと輝かせた。
「心機一転、すぐ練習頑張れるようにね。」
鉄平の手にはバスケ部の皆からのバッシュ、そして私からのイニシャルワッペンを付けたスポーツタオルやテーピング、練習着がしっかりと抱えられていた。
あれからもうすぐ一年になる。
毎日必死にリハビリする鉄平の姿を見ているからこそ、その努力が報われてほしいと切に願っている。
「、ちょっと外に出ないか?」
「うん。」
立ち上がる鉄平に肩を貸して、手を繋いで部屋を出た。