第38章 妬かれる幸せ*氷室*
どうしたの?と聞く間もなく、辰也は私を腕の中に閉じ込めた。
あまり人前で過度に触れない彼が、教室でこんなことをするのは初めてだった。
「辰也…?」
顔を上げて辰也の方を見やれば、怪訝そうな表情を浮かべていた。
「…さっきの彼とはよく話すの?」
「え?そんなにだよ。新学期からずっと隣の席だったから、話しやすいけど…。」
その質問にはっとした。
そしてそれから言葉を続けようとしない彼に、半信半疑で尋ねてみた。
「…もしかして妬いた?」
「もしかしなくても、そうだよ。」
いつも余裕に見える表情とは違い、どこか困ったような顔をしている辰也から、私は目を逸らせなかった。
「…が俺の知らないやつと話しているのを見るだけで、こんなにざわつくなんて思わなかった。」
辰也からそんな言葉を聞けるなんて思わなくて驚いたけれど、私もこの機会に思っていたことを伝えることにした。
「…そんなの、私はいつもだよ。辰也のこと話している女の子いっぱいいるし、クラス離れちゃったから寂しいし不安だもん。」
少し顔を俯かせていると、辰也は私の頬にそっと手を添えた。
「俺は以外には興味ないよ。…こんなに自分だけのものにしたいと思ったのは初めてだ。」
ぎゅっと抱き締められる腕の力が強まって、気持ちに嘘がないことが伝わってきた。
「どうして笑ってるの?」
知らず知らずのうちに顔が緩んでしまっていたようで、そう言われるまで気付かなかった。
「ごめんね。…辰也からそんなこと言われて嬉しくて。」
「不本意だけど、喜んでもらえたなら良かったよ。に対しては気持ちを抑えられなくなる。」
その言葉と共に降ってきたキスは、いつもよりも熱っぽくて、寂しさはすっと引いて、ぐらついていた心を整えてくれた。
こんな彼を見られるのは私だけ。
そう思うと、また笑顔が溢れてしまうのだった。