第34章 プライドなんて捨ててしまえ*花宮*
足が勝手に駆け出していて、あっという間に中庭が見えてきた。
辺りを見回してみるが、はいない。
さっき原がその現場を見たというのだから、まだいる方がおかしい。
そんなこと考えれば簡単にわかる。
「…何してんだか。」
一つため息をついて、体育館へ戻ろうと踵を返した時。
「花宮くん!」
いつも通りのジャージ姿のが息を切らして現れた。
「良かったぁ…追いついた。」
「…お前何遅刻してんだよ。トロトロしてんじゃねぇ。」
「ごめんなさい…。でも花宮くんこそ何で中庭にいるの?」
首を傾げて俺を見るの質問は、また俺の頭を混乱させた。
自分でもわからない。
身体が勝手に動いていたんだから。
ただ一つだけはっきりわかっていたのは、こいつを誰にも取られたくないということだった。
プライドなんて捨ててしまえ。
絆された自分を認めろ。
「…お前告られたの?」
「え?…あ、うん……。」
戸惑いに瞳を揺らして俯くは憂いを帯びていて、
いつもと少し違って見えた。
「それ、断れ。」
「…どうして?」
「お前は俺の隣にいろ。」
「好き」だなんて甘ったるい言葉は言えなくて、こう伝えるのが精一杯だった。
あまりにも身勝手な告白だとわかっているが、今を逃したら二度と自分の想いを口にすることは出来ないと思った。
再び顔を上げたは目を丸くして、頬を赤くして俺を真っ直ぐ見つめた。
「…いていいの?」
「二回も言わせんなよ、バァカ。…ほら、部活戻るぞ。」
それからに顔を向けられなくなって少し前を歩いたのは、にやけてしまう口元と熱くなった顔を隠したかったから。
体育館へ向かう途中、半歩後ろから呼びかけられた。
「花宮くん。」
「…何だよ。」
振り向かず前を向いたまま、答えれば返ってきた言葉がまた俺の頬を緩ませた。
「私ね、ずっと花宮くんのこと好きだったんだよ。」
ちらりと後ろに目線を送ると、柔らかく微笑むが見えた。
その笑顔はまぁ合格点だったから。
一回しか言わないからよく聞いておけよ。
「…俺の方がお前の事好きだっつーの。」