第32章 空色に映る桜*黒子*
「バスケ部に入部して、本当に素晴らしいチームメイトに出会えました。それだけでも恵まれていると思っていたのに、君がマネージャーとして現れて…。」
言葉を一つ一つ丁寧に紡ごうとするテツくんに耳を傾けていると、テツくんが私の髪に触れてするりと指を通した。
「…テツくん?」
どうしたのかと思い首を傾げれば、テツくんはふわりと優しい笑顔を見せてくれた。
「恋をした君が僕を好きだと言ってくれて、これほどまでに幸せなことはなかったです。…君が隣にいてくれるから、今年の桜はとても穏やかな気持ちで見ることができています。」
とても澄んだ瞳で見つめてくれるものだから、私の心も透明になって素直な気持ちが自然と口から溢れた。
「私もね、テツくんと見る桜が一番綺麗に見えるんだ。…好きな人と一緒に見るの初めてで、こんなに嬉しいんだって初めて知ったよ。」
「…これからもずっと君が好きな桜を隣で見させてくれますか?」
「もちろん!むしろお願いします…。」
テツくんはきっと無自覚だと思うけど、何だかプロポーズみたいな言葉に鼓動が高鳴ってしまった。
「。」
「はっ…はい!」
先程の一言が余程私の心をときめかせたのか、思わず変な返事をしてしまった。
「…キスしてもいいですか?」
「…うん。だけどここ外だし見られちゃうかもしれないよ?」
照れ屋なテツくんだから人目が気になるところではあまりキスをしない。
ここは学校、しかも部活の朝練でぽつぽつと登校してくる人の姿が見える。
「いいです。…桜の下での口づけというのも良いかと思ったので。」
一応辺りを見回して二人の唇が触れたほんの僅かな瞬間に風が少し強く吹き、桜吹雪が周りの視界を眩ませてくれたかのようだった。
唇が離れた時、テツくんは私の耳元で一言そっと囁いた。
「…そろそろ行きましょうか。、顔が真っ赤ですよ?」
「…だからそういうことさらっと言うのはずるいんだって。」
顔を赤くして唇を尖らせる私を見て、テツくんはクスクスと笑っている。
…まぁ、いいか。
テツくんが隣で笑ってくれるなら。
いつもストレートなテツくんの言葉には翻弄されてドキドキしてしまうけど。
さっき耳元で残した置土産に私はついつい顔を綻ばせてしまう。
「、大好きです。」