第32章 空色に映る桜*黒子*
朝6時30分。
いつものように携帯が震えた。
「おはようございます。着きましたよ。」
窓から外を見下ろすと、本を読みながら待つ彼の姿が小さく見えた。
ふふっと一人でにやけながら、最後の身だしなみチェックをして、家を出た。
「テツくん、おはよ!」
「おはようございます、。…行きましょうか。」
本を閉じてテツくんが柔らかく目を細めてくれるものだから、私もつられてふっと笑顔になった。
今では当たり前のようにどちらともなく繋がれる手。
付き合い始めたばかりの半年前には考えられなかった。
それだけの時間をテツくんと過ごし、心がもっと近づいたんだと実感する。
「朝でももう暖かいね。」
「そうですね。マフラーも手袋も必要なくなってしまいました。」
つい最近まで冷たい空気の中、体を縮こませて歩いていたのに。
「寒いから」を理由にして、腕にぎゅってしがみつくのも出来なくなっちゃった。
「…手袋がないので、の手の感触がちゃんと伝わって嬉しいです。」
私がその言葉に反応してテツくんの方を見やれば、顔色一つ変えずにクスリと笑みを溢している。
「テツくんそういうことさらっと言うのはずるいと思う…。」
「そう思ったんですから仕方ないです。」
こんな風に言葉で翻弄してくるのも、一緒にいる時間の分だけ心が近付いた証…と思っておこう。