第26章 恋人初心者*日向*
着替えを終えた順平と久しぶりに並んで帰り道を歩く。
「…何かあったのか?待ってるなんて。」
「何にもないよ?最近ゆっくり話してないなって思っただけ。」
そうか、とふっと笑う横顔を眺めつつ、今日友達と話したことや最近あったことなんか話してみた。
私の右側で、順平の片手が空いている。
…手、繋いでみたいな。
「…順平。」
「あ?」
「あの…え、っと……。」
意を決してみたものの、自分の願望を口にするのはやっぱり恥ずかしくて難しくて。
ぎゅっと唇を結んで、順平の手の小指を静かに握った。
お願い、気付いて。
照れくさくて俯いていると、私の手から小指はするりと抜けて、すぐに大きな手が私の手を握った。
好きな男の子と手を繋ぐなんて初めてで、そのごつごつした感触、伝わってくる温もりに今度は私の顔が熱くなった。
ちらりと順平の方に視線を向けると、余裕がないような表情で私の様子を伺っていた。
今日は素直に気持ちを伝えようって決めた。
手を繋いだだけで、心の奥からじんわりと暖かくなる。
「…嬉しい。」
その一言しか出なかったけれど、それ以上の言葉が見つからないほど嬉しかった。
「…手、繋いだだけだぞ?」
「うん。」
「…俺、手汗かいてるんだけど。」
「わかってるよ。…それでも嬉しいの。」
私、こうして彼に触れたかったし触れられたかったんだ。
「そんな事言うなら、もう我慢しねぇぞ?」
「…その方がいい。」
「…ダアホ。」
自分の気持ちを正直に伝えたら、順平は今度は手だけではなく身体全部で私を包んでくれた。
腕をそっと背中に回して見上げれば、今まで見たことがない「彼氏」としての柔らかな笑顔が見えた。
きっと、私も同じ顔してるんだろうな。
恋人初心者な私たち。
これからもっと深く繋がっていくだろうけど、今日のこの初心を忘れずに。