第25章 文字に想いを託して*笠松*
2月14日、夕方。
体育館の前で3年生の先輩方を待つ。
すると、向こうから久しぶりに練習着に身を包んだ先輩方の姿が見えた。
「先輩方、お久しぶりです!」
大きく手を振れば森山先輩がいち早く駆け付けてくれた。
「おっ!相変わらず可愛いな。…俺たちやっぱり運命の赤い糸で繋がってるんじゃ…」
手を握られ苦笑いをしている私に気付いたのか、森山先輩が言葉を言い切る前に後ろから先輩が頭を叩いた。
「うるせぇよ!寒いんだから、早く中入れ!」
「笠松先輩、こんにちは!」
久しぶりに会えた嬉しさから、自然と笑顔になってしまった。
「…おう。」
照れくさそうに、でも口元に笑みをこぼしてくれて、私の頭にぽんと手を置き、体育館の中へと入っていった。
ほんの些細な行動で、一気に心拍数が高くなった。
先輩と過ごせる最後のバレンタイン。
去年に続き、今年も部活が始まる前に部員の皆に手作りのチョコレートを振る舞った。
皆の中で先輩も照れくさそうに食べていたけれど、それは表向き。
本当は先輩に気持ちを伝えたくて、こっそりもう一つ特別に用意していた。
女の子が苦手な先輩が私のことを好きだなんて、到底有り得ない。
自己満足かもしれないけど、気持ちだけは伝えたかった。
直接渡す勇気がどうしても出なくて、皆が練習している隙に私は先輩の下駄箱の前に辿り着いた。
周囲を見渡して、深呼吸を一つして下駄箱を開き、ダークブラウンの箱と手紙を閉じ込めた。
誰もいないことをもう一度確認して、私はその場を後にした。
「笠松先輩へ
いつも本当にありがとうございます。
先輩の優しさや頼もしさにとても助けられています。
気が付けば先輩のことを好きになっていました。
卒業しても、また来てくださいね。
マネージャーとして、先輩の側にいられて幸せでした。
」
きっと次に会うのは卒業式。
同じ気持ちでなかったとしても、会う機会が減れば気まずくないし、私の気持ちも薄れていくかもしれない。
伝わるだけで、いい。