第10章 ある男の回想 降谷side
《百合ちゃんと会ってきます。晩御飯はいりません。》
勤務終わり、スマホを見るとメッセージが届いた。
そんなの初耳でメッセージにはその一言しか書かれてなかった。
しかし、連絡は返せない。隣にいる風見は緊張したような顔で見てくる。そんな顔をしてもいいのか、と言いたいことだが無視することした。
「……やはり黒だったんですね。」
大沼(オオヌマ)百合、雪花の友で裏切った女。
そんな大沼百合は脱獄を手伝っていたらしい。誰の脱獄だって?それはあいつの元彼に決まっている。
ギシギシとした雰囲気の中、風見を見るとなぜかかしこまった態度を取られた。
「今、檜原雪花はそいつと会っている。
もしも、この2人が共同していたら危ないな。」
「!、会っているんですか!?そうしたら、早く行かなければ!」
分かっている。そう言うように車を発車させた。
隣にいる風見は携帯で連絡を入れている。場所は、前に入れておいたアプリで分かっていた。分かっていたが、最初のこじゃらけたBARの位置しか分かっていない。もしかしたら、勘付いてスマホを壊した可能性もあった。
案の定、BARにいくといなくて聞き込みをしたら女が看病すると言い、出ていったらしい。
「降谷さん!!他に手がかりは!!」
「……あとは使われていない工場。」
そこは前にハニートラップで吐かせた雪花の情報だった。今は使われていないが前に麻薬の取り締まりをしていた所だ。この可能性は充分にある。
「降谷さん、なぜそんなに冷静なんですか?」
冷静?な訳無いだろ、今からでもその百合と奴をぶん殴りたい気持ちでいっぱいだ。しかし、それを悟られては公安の資格はない。
そんな冷静ではない風見を見て、少しばかり睨みつけた。
「それを出さないのが普通だろ。まだまだだな、風見。」
無事で居てくれ。やっと俺の本性を知ってもらえたのだからそこで死なれても困る。
RX-7のスピードをあげて、目的地の使われてない廃工場へと向かった。