第10章 ある男の回想 降谷side
車から出た瞬間、銃弾の音が聞こえた。
風見と走って工場のシャッターを蹴り飛ばし、中には行っていく。
生臭い血の匂いが充満していた。凄く嫌な予感がする。
その匂いへ足を進めていくと予想以上の光景が目に入ってきた。
柱に寄りかって意識を失っている雪花にそれを庇うように被さっている女、そして拳銃を握りしめて倒れている男。
まるで地獄絵図のような光景で一瞬時が止まったような感覚になった。
すぐに駆け寄ると男は死んでいて、女は意識を失っているがまだ生きている。腹には銃弾のあと。
そして、雪花は傷だらけだった肩にまた傷ができた。銃弾を撃たれたあと。
ここまで来るのに遅かった。もし早く来ていたら、穏便に済ませられていたかもしれない。
後悔したがその暇は無さそうだったのですぐに出血の手当てをした。風見は救急車と警察を改めて手配をしている。
「……百合ちゃん……。」
「雪花!」
声が聞こえた。雪花を見るとボヤッて目の色が濁ってるように見えてまた意識を失いそうだ。すぐに駆け寄ると痛むであろう腕を必死に動かして大沼百合を撫でる。
「百合ちゃん、百合、ちゃん……。」
「雪花、怪我の調子は!?」
チラッと横にいた俺に気づいたのか、目線を合わせてくれた。びっくりしたように目が見開いた気がしたけれど、小さく口を開ける。
「あむろ、さん……。」
「え?」
安室さん?いや、安室さんとは前の呼び方だ。今は"零"と呼ばれている。もしかして、ごちゃになっているのか?背中をゆっくり優しく撫でるとまた目を瞑り意識を失う。
安室さんとはどういう意味なのか、まだそれは分からないまま救急隊員がやってきて担架に運ばれて行った。